うちのチーの事(猫の「老い」について)

うちのチーは今年で17歳。チーの娘のウーとキャラは昨年他界しました。ウーは享年15歳でした。ここ数ヶ月、チーの様子に明らかな「老い」を感じる変化が起きました。まず勝手知ったる部屋を歩く際、自動掃除機のルンバの様に壁伝いに歩くようになりました。毎日にように登っていた出窓にも登らなくなり、眼が良く見えておらず階段を踏み外すこともしばしば。耳も遠くなり「チー」と呼びかけても無反応、「ニャー!」と呼んだ人を見て鳴く子だったのに。身体にソッと触るとビックリした様に大きな声で鳴きます。そして常習的に粗相するようになりました。野良猫出身にもかかわらず、家に入れてあげたその日から教えていないにもかかわらず猫トイレを使用し、これまで一度たりとも粗相をしたことがなかったのに、です。

犬猫の長寿命化

家猫は年々長寿命化しています。ペットコーナーのペットフード売り場を覗くと「15歳以上用」や「20歳以上用」と言ったフードを見かける事が普通になりました。猫の長寿命化は主にこうした理由からと考えられています。

  • 室内飼いの増加
  • 医療の発達
  • 食料の発達

室内飼いが増えた事が一番大きな要因でしょう。外猫/野良猫は交通事故、猫同士の喧嘩、伝染病など様々なリスクに晒されながら生活しているため、その平均寿命は10年とも言われています。こうしたリスクから開放され、健康に良いキャットフードを食べ、健康に気を付け医療機関で適切な治療を受ける事が出来る猫が増えた事でシニア猫たちが増えて来ています。こうしたシニア飼い猫が増えた事で、飼う人間側はほとんど誰も経験をしたことのない「老いた猫の生態」を知り、「老いた猫のケア」を手探りでしなければならないという状況になって来ています。

チーとの出会い

元々野良猫だったチーが初めて我々の元へ姿を表したのが2006年。親猫に連れられて庭先に来ました。こちらがその時の写真。

その数カ月後、子猫のウーを連れて来て、紆余曲折の後、母娘ともども我が家の一員として一緒に暮らすことになります。

チーの伝説その1 2階までよじ登ってきた話

ウーが目の手術のため入院していた数日間、チーは毎日我が家にやって来て窓の外で鳴きました。我々に気付いてもらうために網戸によじ登って鳴くのです。その度、家の中に入れてあげて「あなたの娘はいま病院にいて頑張ってるからね。」となだめていました。

我が家は2階建てのテラスハウスで、寝室が2階にありました。ある晩の深夜、外からガタガタと物音がして目覚めました。泥棒が来たのか!と思い、カーテンを開けたところ…「ニャー!!」という鳴き声。ウーを心配するあまり、なんとエアコンのダクトを伝って2階までよじ登って来たのです。窓を開け、即座に抱きかかえて部屋の中に入れてあげました。母猫の母性本能の強さにビックリした出来事でした。

チーの伝説その2 新居から失踪した話

猫専用賃貸を建てるべく土地を購入し、建築工事が始まるタイミングで我々は中野区の実家へ一時的に身を寄せる事にしました。実家にはチーの子供、タマとクロの兄弟を引き取ってもらったので久々のファミリーリユニオンです。

実家は二世帯住宅の一軒家で、我々は当時使っていなかった1階部分を使わせてもらっていました。引っ越して数日後、朝起きると中庭に面した窓がちょっと開いているのです。なんと4匹が協力して窓を開けてしまったのでした。中庭には楽しそうに遊びまわるウー、タマ、クロの姿が…。

中野の実家にある中庭で。脱走した時の写真。無邪気に遊んでます。

慌てて中庭に下りなんとか3匹を部屋の中へ連れ戻しました。が、チーの姿がどこを探してもないのです。手分けして周囲を探す生活が1ヶ月ほど続いたでしょうか。これだけ探してもいないのだからチーを見つけることはもう難しいだろう、せめて誰かに保護されていて欲しいと捜索を打ち切りました。自分たちで作る猫専用賃貸はこうした事態が起こらないよう、悲しむことがないよう、脱出出来ない工夫をしようと誓ったエピソードでした。が、話しには続きがあるのです。

チーの失踪から約3ヶ月後の夜、家にいる3匹が窓に集まって一点を見つめているのです。長いこと3匹がジッと外を見ていることを不審に思い、猫たちが見ている方向に目を凝らしてみました。なんとなく光るものが見えます。しばらく見ているとその光りが徐々にゆっくりと近づいて来ます。猫?…あれ?あの柄は…チー!?窓を開けると気配を察知して遠くへ逃げてはまた近づいてを何度か繰り返し、ついに手が届く距離まで近づいて来ました。私は「チー、おうちに入っておいで」と声をかけると無言で恐る恐る部屋の中へ入って来ました。身体が汚れ、ものすごく痩せて一見して分からなかったのですが、間違いなく3か月前に失踪したチーでした。

一般的に、脱走した猫が1ヶ月経っても帰ってこない場合、戻ってくる確率はかなり低くなると言われています。チーの場合、引っ越して間もない脱走で、全く土地勘がありません。恐らく帰巣本能で杉並の住んでいた場所に向かったのだと思います。到達したのか、途中で諦めたのかは分かりませんが3ヶ月間、外の世界をサバイブして中野の仮住まいへ戻って来たのです。

猫を飼うと言う事

ここ挙げたエピソードはほんの序の口なくらい波乱万丈な猫生を歩んで来たチー、今は静かにGatos Aptで過ごしています。歩く事も億劫であまり動かなくなり、白髪が増え、粗相し、朝方に遠吠えの如く(耳が遠くなって声が大きい)鳴いて我々を起こす…飼い主にはなかなか大変な生活をしていますが、あまり苦に思っていないのです。チーは大事な家族ですから。

これから猫を飼おうとしている方にお伝えしたいのは、楽しいこともあれば大変なこともある、という事です。一度飼うと決めて迎え入れたら、よっぽどの事情がない限り終生飼養することが飼い主の義務だと思うのです。ペットショップから購入する、野良猫を保護する、保護猫シェルターから迎え入れる、どんな状況でもこれから飼おうと思っている方には「本当に20年一緒に暮らせるか?」をぜひ再考していただければと思っています。猫と一緒に生活するのは大変なこともありますが、それ以上に楽しい事だらけです。覚悟を決めて、猫を迎え入れてくださると嬉しいです。